愛媛県宇和島市白浜。リアス式海岸が続く宇和海に面し、段々畑が広がるこの町。
夕日で紅に染まった海が美しく輝きます。そんな豊かな海を望む農園「ニノファーム」。
この農園を営む二宮新治さんは、柑橘の栽培だけでなく、魅力の発信にも力を注ぎます。
宇和島から全国へ!柑橘を発信する仕掛け人誕生秘話

今回お話を伺った「ニノファーム」の二宮新治さん
もともと農家を継ぐ気はなかったという二宮さん。
高校卒業後は京都のアパレル企業で会社員として働いていました。
しかし次第に会社員として働くことにもどかしさを感じ、自分でものづくりに携わったりクリエイティブな仕事をしてみたいと思うようになります。
そんな日々を過ごしていたある日、祖父が亡くなったことをきっかけに自分が父親の後継ぎをしなければ畑や家がなくなることに気付きました。
「丁度自分が仕事について考えていた時期と重なって、これも何かのタイミングなんだと思いました」二宮さんは地元に戻ることを決意して、27歳で農家として働き始めます。
何の知識や経験もないまま農家となった二宮さん。まずは両親の園地を手伝うことから始め、技術面を一通り覚えていきました。
経営者としての知識も勉強会などに出席して身につけていったそうです。
両親だけではなく、行政やJAからのサポートを受けたり、他の農家の畑を見る勉強会に積極的に参加することで、技術や知識だけではなく、人との繋がりも作っていきました。
「ニノファーム」としての事業が安定してきた頃、「農家の高齢化は全国的にもずっと言われてきた課題で、宇和島も例外ではありませんでした。柑橘の産地としてもっと知名度を上げて活気づける活動はできないかと考えるようになりました」。
柑橘を広めたい!農業仲間と産地を元気に!
自分のことだけではなく、宇和島を柑橘産地と捉えて農家仲間で何か活動をしていきたいという想いから、2015年に柑橘農家仲間たちとNPO法人柑橘ソムリエ愛媛を立ち上げました。
発足当初は、県内外で柑橘の販売促進イベントの実施や、クラウドファンディングでの資金集めに奔走しました。
その資金で二宮さんたちがやりたかったのは「柑橘ソムリエライセンス講座」。
講座では、柑橘の種類や美味しい食べ方などについては座学で、ジュースのテイスティング、みかんの食べ比べなどについては実技を通して柑橘について学びます。
講座を受講した後、試験に合格すれば「柑橘ソムリエ」の資格を取得することができます(柑橘ソムリエについては後述)。
2019年に初めて開講した時から話題となり、今も講座を開けばすぐに参加枠が埋まってしまうそうです。
受講者は柑橘農家以外にも料理人や主婦、学生など多種多様。まさに二宮さんたちが目指している「自分たちの活動を通して柑橘のことを広め、産地と個人を繋ぐ」ことが実現できているのです。
苦労をいとわない!研修生を積極的に受け入れ続ける理由とは?
また、二宮さんは新規就農を目指して柑橘栽培の勉強に来る人を積極的に受け入れています。研修生をみながら自身の作業をこなすのは大変。
しかし、「僕が研修生に時間を割くことで、宇和島やその他の柑橘産地の担い手が増えたり、彼らの何らかのアクションに結びつくのであればまったく問題ない」と二宮さんはいいます。
取材を通して、大きな地元愛や優しい人柄にふれることができました。

学生編集部の質問にも快く答えてくださった二宮さん
柑橘ソムリエとは?
「柑橘ソムリエ」は、宇和島市の柑橘農家が抱えていた地域活性化の課題を解決するために生まれました。
農家が個々に経営していたため、地域全体の発展が難しく、町が廃れる危機に直面していました。
そんな中、二宮さんをはじめとした地元農家たちが「みんなで何か面白いことをしたい」と思い、松山のコーヒー店の方との交流を通じて「柑橘ソムリエ」のアイデアが浮かびました。
2015年に約20人の農家が集まり、「NPO法人柑橘ソムリエ愛媛」を設立しました。
その後豪雨により多くの畑が被害を受けましたが、なんとか立て直すことができ、2020年に活動を本格化させ、地域の魅力を引き出す取り組みがスタートしました。
柑橘ソムリエになるためには?
柑橘ソムリエになるには、勉強会に参加し、テストに合格する必要があります。テストは学科(柑橘の基礎知識やアピールポイント)と実技(目利き、テイスティング、表現)に分かれており、合格率は6~7割程度です。
みなさんも一度柑橘ソムリエのテストを体験してみましょう!!!
【問題例】
Q1:温州みかんが誕生したのはいつどこ?
A1:600年頃 鹿児島県
Q2:日本で栽培されている品種はどのくらい?
A2: 約100種類
Q3:果実の大きいものと小さいものはどちらが糖度が高い傾向にある?
A3:小さいもの
Q4:愛媛県が開発し、愛媛県でしか栽培できない品種は?
A4:甘平、愛媛果試第28号(紅まどんな)、媛小春など
なかなか難しい問題ですよね。みなさんも柑橘ソムリエを目指してみてはいかがでしょうか?
二宮さんの1日・1年のスケジュール
二宮さんの1日は、朝6時に起床して8時には作業に取りかかります。
ご両親と分業することもあり、倉庫での発送作業などを二宮さんが、収穫をご両親が担当されることもあるそうです。
昼食を挟んで17時まで作業をした後、19時からは送り状の印刷作業などの事務作業をこなします。
1日全体の作業が終わる時間は季節によっても異なり、比較的余裕のある夏季は19時に終わることもある一方で、収穫や出荷でとりわけ忙しい冬季は24時をまわることもあるのだとか。
そんな二宮さんの1年のスケジュールは図にしてみました。

ニノファームで栽培している柑橘と収穫時期(2025年3月時点)
こうしてみると多品種生産により1年間絶え間なく作業があることと同時に、もし1つの品種が不作になってしまった場合のリスクヘッジができていることがよくわかります。
特に宇和島は少量多品種が根付いており、柑橘ソムリエ愛媛に所属する柑橘農家仲間が手掛けているものだけでも25品種もあるのだそう…!
二宮さんのこだわりが生む、極上のみかんたち
山の傾斜地を利用した温暖な気候のもと、太陽の光、宇和海からの潮風をたっぷりと浴びて育てられたニノファームの柑橘。現在は、温州みかんだけでなく、「南津海(なつみ)」、「ブラッドオレンジ」、「せとか」も主力に、15品種を栽培しています。
「南津海」は、小玉で甘みが強く皮が向きやすい上に、春に出荷できるのが強みです。

南津海(なつみ)
「ブラッドオレンジ(タロッコ)」は、赤みが強く、酸味と香りが特徴的で、宇和島市が全国的な産地です。「せとか」は、とろけるような果肉と濃厚な甘さが人気の極上品です。

宇和島が生産量日本一を誇るブラッドオレンジ(タロッコ)
これらのみかんを栽培し分ける二宮さん。間伐や施肥にいい意味で「手をかけない、必要なものだけ選びぬいて与える」というこだわりがあります。
それにより、自然の恩恵を受けた土地本来の味がたっぷりと感じられるおいしい柑橘を育てることができるそうです。
中でも、風に揺られて傷ついてしまった柑橘や収穫する際に傷つけてしまった柑橘は鮮度を保つことが難しく、青果として販売することができません。
このような柑橘はジュースにして販売し、育てた柑橘を無駄にしない工夫が施されています。
二宮さんが大切に育てた柑橘たち、ぜひご賞味あれ。