マルソウダガツオを使って作る節を“宗田節”(そうだぶし)という。
深い味わいは蕎麦やうどんの出汁にうってつけで、料理人から愛されている素材です。
高知県土佐清水市は宗田節の生産量日本一。
えひめこうち食べる通信では「たけまさ商店」の島谷真矢さん・早苗さんにインタビューをしました。
身近過ぎて実家が“宗田節屋”だと知らなかった
早苗さん
「土佐清水で三兄弟の末っ子で兄、姉と続いて私。だから家を継ぐとは思っていなくて。身近にありすぎて“宗田節”を知らなかったんですよ。ずっとうちは鰹節屋だと思っていました。教科書だって高知はカツオの漁獲量がどうとか、鰹節が作られていて…ということは書いてあるのに宗田節のことなんて当時は書いてなかったんです。だからうちが宗田節を作っているという認識がなかったんです」
開口一番驚きの事実。実家の生業を長らく“鰹節屋”だと思っていた早苗さん。
早苗さん
「だから都会に出たときも会社の人に『実家は何やってるの?』と聞かれて『鰹節屋です!』と答えて、『あ~やっぱり高知県って感じだね!』と会話していたんですよね。今思うと恥ずかしい。でも当初は問屋に卸していたので地元でもあまり宗田節を認識する機会がなくて。鰹節とは別物なんだと知るタイミングを失くしていました」
真矢さん
「丁度僕たちが出会った頃に問屋に卸すのから商品化やお土産として地域が宗田節を一般消費者向けにも販売するようになったんです。」
早苗さん
「そうそう。実家から荷物が送られてきた段ボールや削り節パックにもドン!と“宗田節”と書かれていて、そこで私は実家が鰹節屋ではなく宗田節屋だと知る…というね(笑)」
宗田節との出会い「これは残さんといかんよ」
真矢さん
「僕は大阪生まれ、大阪育ち。妻と知り合った時に振舞ってもらった料理が美味しくて、後々その隠し味が宗田節だったと知るんですけど…(笑)」
そう話すのは夫・真矢さん。
妻・早苗さんの実家であるたけまさ商店で宗田節づくりを受け継いでいる。
真矢さん
「もともと会社では食品添加物の製造をしていて食品素材には興味がありました。宗田節を知れば知るほど素材だけでこんなにもうま味が上がることに可能性を感じて、『これは残さんといかんよ』と言ったのを覚えています」
早苗さん
「だけど私は兄が継ぐと思っていたのでまだこの時は半分他人事と言いますか…随分と宗田節を気に入ってくれているなと思っていました」
真矢さん
「こっちは真剣で!(笑)将来的に妻の兄が継いで僕が製造に入ろうかなと考えていました」
早苗さん
「だから地元にいる家族より外におる人の方が興味があるんやな、と驚きました」
真矢さん
「初めて宗田節を食べた時にすごく感動して、今まで大阪にいて鰹節文化で。たこ焼きやお好み焼き、出汁文化の根強い地域ではあったんですけど、宗田節を食べた時に『何これ⁉』と一瞬でファンになりました」
真矢さん
「お義父さんが高齢になり、後継者がいないなら店を畳もうか…という話が上がった時に土佐清水に移るので製造方法を教えてもらえないか、と頼みました」
早苗さん
「そしたら『おうおう』って多分嬉しかったんやと思います。」
真矢さん
「大阪にいた頃は毎日満員電車で通勤していましたけど、土佐清水は宗田節の仕事はあるし、空気も良いし、夜は星が綺麗やし、刺身は美味しいし…」
早苗さん
「丁度子どもも生まれて子育てする環境としても良かったんですよね。土佐清水に帰ってきてからすぐコロナ禍に入って、タイミングとしては良かったのかも」
早苗さん
「確かにね、コロナ禍を挟むとまた宗田節の技術を受け継ぐまでに時間が空いてしまうところでしたね」
—葛藤はありましたか?
真矢さん
「葛藤はないけど悩みはありましたね、社長(お義父さん)が築きあげてきたものだったので。全然知らない状態から引き継ぐっていうプレッシャーはありました。だけど、自分が作ったものが全国に出回ると思うとわくわくします!今はお義父さんも現役で宗田節づくりをしてくれているので、あの人の頭に入っている感覚的なものや技術を僕が引き出して受け継がないと…と張り切っています。年齢的に僕も長くやれてあと30年少し。この火を絶やさないようにしたいですね。息子が継ぎたければ継いだら良いし、僕みたいに外から興味がある人が来ればその人に教えるのでも良い。」
早苗さん
「下の節納屋で製造して加工したものが店舗に並んで、お客さんがそれを買っていく…単純なことやけどこれってすごいって思います。今の時代、モノがあふれていてその奥にいる生産者って見えないことも多いと思うんです、買う人にも安心してもらいたいし、作って売る側の私たちも自分たちの商品を選び食べてくれるひとたちに対して責任があるんだと実感できて良い関係性です」
真矢さん
「宗田節って鹿児島など各地で作られていて、料理人の方とか宗田節を知っている人ほど『うま味が強いけど雑味がある』と評価される。だけど土佐清水の宗田節を食べてもらった時に『本当に宗田ですか?雑味が少ない』と驚かれました。製法や燻し方のわずかな違いで変わるんだなあと感じました」
—それはすごい…!ちなみに雑味が少なくなる要因に心当たりはありますか?
真矢さん
「考えられるのは頭を取るだけでは内臓が取り切れずに苦みが残るのと、割らずに丸の状態で作ると水分量が多くて燻す時間が伸びてしまうんですけど、水分が残ると傷みやすくなるので酸化の原である脂肪分が味に影響しているかもしれません。その点割っているとその分身が薄くなるので培乾する時に芯まで煙で燻されてうま味が凝縮されます。燻すと酸化を遅らせる効果があるので雑味の原因が少ないんじゃないかなと考えています」
これからの宗田節
—おすすめの宗田節の楽しみ方を教えて下さい!
早苗さん
「鰹節のやわらかな美味しさに比べると宗田節はガツンとうま味が来る感じ。だからこそいろんな料理に加えるだけで味が締まります。特に薄削りをサラダにかけてもらいたいです、野菜の素材を楽しめて宗田節のうま味もしっかり味わえます。」
真矢さん
「厚削りならめんつゆやな!醤油・みりんは同量で、圧削りを加えて煮立たせる。これだけでそうめんにも煮物にも使える万能なめんつゆになります。」
早苗さん
「めんつゆなんで最終的に厚削りは取り出しちゃうんですけど、それも砂糖とか生姜足して佃煮みたいにして食べちゃう…!」
真矢さん
「これは市販のめんつゆにもう戻れないですよ…(笑)出汁文化って日本人の食卓には欠かせないもののひとつなので、つくり手として伝え続けていきたいです」
早苗さん
「知らないうちに口にしているものだし、本能的に安心できる味ですよね。意外と食品表示とかみてもらうと宗田節って入っているんですよ」
—まさに縁の下の力持ちですね
真矢さん
「そう言ってもらえると嬉しいです…!ただその一方で、原料であるソウダガツオの漁獲量が減っていたり、人手不足という慢性的な課題には直面しています。大手のような大量生産ができるわけではないので自分たちの目の届く範囲でこれからも作っていきたいです。あとは新商品を作ってアプローチを変えてみるとかね…!試行錯誤しながら残していく方法を考えていかないと。」
早苗さん
「初めての加工品に挑戦したのが『老舗鰹節屋が考えた Dashi Pota』(以下、Dashi Pota)です。」
真矢さん
「今までは削り節で削り方を変えて商品にはしていたんですけど、買ってくれる人にも『どうやって使ったらいいんですか?』と質問を受けることが多くて、『鰹節と同じように使ってください』と答えても『そもそも鰹節をあまり使わなくて…』と言われることもありました(笑)。だったらお湯をそそいで出汁そのものの味を感じてもらいつつ、洋風に舵をきってみようか…!とポタージュにしたのがDashi Pota。」
—和食を越えた挑戦ですね!
真矢さん
「そうなんです、こういうことをきっかけに出汁の美味しさに気づいてもらえたら嬉しいです。」