編集部レポートvol .2|【2023年5月号】漁師の食卓|川口真穂さん

「漁師の食卓」の作業場へ向かう途中、振り返ると室津港と太平洋を臨む大パノラマ

視界を遮ることなく、どこまでも続く水平線は太平洋ならではの景色。
室津港は高知県室戸市にある漁港のひとつで、約120隻の船がこの港から漁へ向かいます。
世界ジオパークに認定された室戸の海は、特有の地形から近海でも水深が深く、
金目鯛の漁場としても知られています。

そんな室津港からほど近くに、川口真穂さんが経営する「漁師の食卓」はあります。
父・章一さんの釣る金目鯛を漁師のいつもの食卓風景として、もっと多くの人に届けたいという想いから金目鯛の加工販売を2017年から始めました。
「父が漁師だったことが本当に大きな影響だったと思います。幼い頃は『今日もキンメ(金目鯛)?』と食卓に金目鯛があるのが当たり前の風景でした。大人になってその価値に気が付いた」という。
そして、「個人売買が主流ではなかったこともあり、漁師さんは向こうの言い値で魚を売っていました。金目鯛もキロ単価でいうと当時は今の4分の1と随分安価で取引されていました。その現状を目の当たりにして、私は漁師さんの仕事に見合った報酬に繋げていきたい」と考えるようになったのだそうです。
その手段として金目鯛の加工販売で付加価値を付けることを決意した川口さん。
設立時点では飲食や加工業の経験がなく、色々な人の話を聞きに走る日々が続いたといいます。
その中でできた繋がりを活かし、地元企業とコラボ商品を開発。
県内で準グランプリを獲得するなど室戸の金目鯛のポテンシャルの高さをより実感するようになりました。
その後もチャレンジショップで加工品販売を経験する等、活動の場を着々と広げていきました。

作業場を案内し、取材に応じる川口さん

「本当に人に恵まれているのを実感しています。実は、『華金目鯛の塩麹まぶし』も開発のきっかけは地域おこし協力隊の子におすそわけした金目鯛。持って帰ってもらった金目鯛に塩糀をまぶして一晩おいたらしくて、『川口さん、金目鯛に塩糀、とても美味しいです!』って連絡がきたんです」。
その声がきっかけで商品化開発がスタートしました。
実際に塩糀をまぶすことで保存期間が延びるだけではなく、
旨味を凝縮し、独特のねっとりとした身になります。
「はじめは糀の管理が難しくて、変色させてしまったり失敗することもあった」といいますが、現在は製法を確立させ、川口さんを含めた4名で加工作業を行なっています。

元々は他事業者の海産加工場だった。今は川口さんが受け継ぎ、大切に使っている。

加工場兼事務所は室戸港のすぐ近くにあります。
「実はこの場所は他の水産加工事業者さんから引き継いでいるんです。なので港から近くて、仕入れた金目鯛をすぐ処理・加工できます」と川口さん。
「引き継いだのは場所だけではなく、フグのみりん干しとかその事業者さんの味を受け継がせて頂いた商品もあります」。
始めは父・章一さんの釣る金目鯛から始まった「漁師の食卓」。
少しずつ裾野を広げ、室戸の様々な漁師の食卓風景を受け継ぎ、
室戸の海の豊かさと、その暮らしを食べることを通して届けています。

「華金目の塩糀まぶし」誕生秘話は、高知県の「人熱々エピソード」として受賞し、 地元を代表する漫画家 村岡マサヒロさんの手で漫画にもなった。

川口章一さん(左)と真穂さん(右)親子。父の釣る金目鯛の美味しさを伝えるために「漁師の食卓」を立ち上げた。

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