今回2023年11月号の取材に同行いただいた愛媛大学社会共創学部山口信夫ゼミの学生レポートを掲載します。
大学生視点で食の生産現場をまなざします。
「できるだけ自然に近い方法」を求めて平飼いを選んだ
参鍋養鶏場の鶏たちは、自由にのびのび鶏舎を走り回っています。
これは「できるだけ自然に近い形で育てたい」という想いからの飼育方法です。
一般的な養鶏場ではゲージ内の行動を制約している上に茶色のメスだけを飼育しているところを、参鍋養鶏場では平飼いで、白色のオスも一緒に飼育することで自然に近い環境をあえて作っています。
そのため産まれた卵の中には、暖めると実際に孵化する有精卵も含まれています。
もちろん食べることもでき、無精卵と味に変わりはありません。
卵を産むときもストレスがかからないよう気を配っており、卵を産むための少し高さがある薄暗い小屋が所々に設置されています。
これはヘビなどの天敵に卵が襲われないようにするための鶏の本能を利用したものです。そのため鶏は安心して卵を産むことができ、1日に1500個の卵が回収されています。
また、少し体調が悪そうな鶏たちは他の鶏たちとスペースを分け、他の鶏たちにエサを取られることがないようになっており、十分にエサを食べることができるように工夫しています。
そんな愛情たっぷりに育てられた鶏たちはお二人に懐いているようで、抱えられて頭を撫でられている鶏たちは、心なしか安心しているように見えました。
参鍋さんと阿部さんが鶏と接する様子は、まるで我が子を愛でるような姿でした。
鶏が口にするものは巡りめぐって僕たちが口にするもの
オリジナルのエサにはどのようなこだわりがつまっているのでしょうか。
二代目の修一さん(昇平さんの父)が40年かけて改良してきたものを受け継ぎつつ、さらにこだわりを追求しています。
平飼いの鶏ははよく動き、よく食べるのでたくさんのエサが必要であり、エサづくりはまとめて1回で2日から3日分のえさを機械でブレンドして作っています。
エサを混ぜる機械は30年以上使われている大ベテラン。
古くなっていて不具合もあるものの、専用の機械なのでもう売っておらず修理も出来ないため、大切に使っているそう。
エサは専用のベルトコンベアでまんべんなく与えられ、一部は手であげているそうで鶏とのコミュニケーションにもなっています。
エサの半分程度をとうもろこしが占めており、さらにカルシウム摂取ができる魚粉や修一さんの時から作られていた自家製発酵飼料の米ぬか、ゴマかす、腸内環境改善が期待できる墨パウダー、そして卵加工店からのおまけではあるがカカオかすが入っています。
「さすがにカカオかすを使っているのは全国でもうちだけだと思う」とのこと。
とうもろこしは年々価格が上がっているため、もみ殻付きのお米も配合しようかと新たなブレンドバランスを検討中のようです。
また、四国中央市は香川県との県境を有するため、近くの農家が育てる香川県観音寺市の大野原のお米を考えているとのこと。
夏にたんぱく質を多めにするなど季節によってわずかにエサの配合を変えていおり、鶏のことを考えて工夫されています。
さらに、夏は鶏も夏バテしてエサの食いつきが悪くなるので手間がかかっても手であげる回数を増やしたり、水分も多めに与えているそうです。
また、弱った鶏は優先的にエサが食べられるよう、ベルトコンベアの初めの部屋に仕切られており、みんな平等に食べられるように配慮されています。
このようなエサのこだわりを通して、卵にかける情熱や鶏を大切にする優しさが伝わってきました。
参鍋養鶏のとある1日
参鍋さんと阿部さんは、日が昇る前の6時に起床し、身支度を整え、鶏舎に行きます。
甘い声で鶏に声を掛け、癒されたところで2人の1日がスタート。
鶏にエサや水をあげ、鶏が産んだばかりの生命力感じる温かい卵を1つ1つ丁寧に産卵箱から取り、鶏が気持ちよく過ごせるように鶏舎の周りの草を刈ります。
お昼休憩をはさんだ後、ふわふわのひよこを撫でて「午後からも頑張ろう」と元気をもらい、再び仕事をスタートさせます。
午後は出荷準備を行う係と鶏に餌をあげる係の二手に別れて効率よく仕事を行います。
2つの仕事は1週間ごとに交代をしながら行い、仕事内容が偏らないように工夫されていました。
出荷作業の中では、卵の大きさや汚れ、傷などを目で見て確かめ、割れているものやパックに入らないものなど仕訳作業を行っています。
もともとは全ての工程を手作業で何時間もかけて出荷作業を行っていましたが、現在は機械を導入し、卵を洗うところだけは機械を使用して、出荷作業の短縮化をはかっています。
これらの作業を繰り返し行い、1日の仕事を終えると、次の日に備えて早めに就寝します。
毎朝早く起きて仕事を行うという裏には、自分たち人間だけではなく鶏といった「生きもの」を相手にしているからです。
生きものと関わりながら仕事をするということは自分たちの都合ではなく生きものを第一優先して行動する必要があります。
今回取材をさせていただき、命の大切さ、仕事を行う意義など様々なことを学ぶことができました。
本記事は後編に続きます。